帝国データバンクが10年追跡した中小企業全体の後継者不在率は2018年の66.4%から2024年の52.1%へと約14pt改善した。一方、税理士業界は「資格制約」と「高齢化」という独自構造を抱え、改善トレンドの恩恵を受けにくい。10年データで両者を並べて深掘りする。
結論:「52.1%・14.3pt・3,421人」が示す承継トレンドの全国地殻変動と税理士業界の特異性
日本の中小企業全体で後継者不在率は確実に改善している。帝国データバンクの「全国企業 後継者不在率動向調査」によれば、2018年に66.4%だった全国の不在率は 2024年に52.1%(過去最低)へと、約10年で 14.3pt 下がった。とくに2020〜2022年のコロナ禍に急加速で改善が進み、政府の事業承継ガイドライン整備、M&A支援機関登録制度の創設、事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数拡大など、解決インフラの整備がこの改善を支えた。「後継者がいないから廃業」だった時代から、「第三者に引き継ぐ仕組みがある」時代へ、業界の地殻変動は確実に進んでいる。
ただし業種・地域で見ると改善ペースは大きく違う。建設・不動産・サービス業など 労働集約型・地域密着型・専門資格依存型の業種では今も不在率が55%超と高く、改善ペースも全国平均より緩やかだ。地域別でも、沖縄・北海道・鹿児島など離島・遠隔地域では不在率が60%超を維持し、大都市部(東京45%/神奈川42%)と20pt 近い差がある。地方の税理士事務所は、自社の高齢化と顧問先(中小企業)の高齢化が同時に進行する二重の世代交代圧力に晒されている。
税理士業界の事業承継は、他業種とは構造が違う。有資格者要件がある専門業のため、親族承継がほぼゼロに近い。中小企業全体では2024年に内部昇格36.4%が同族承継32.2%を初めて上回る歴史的転換点を迎えたが(帝国データバンク)、税理士業界ではこの「脱ファミリー化」がもっと極端に進む。税理士の60代以上比率は 53.6%(日税連 第7回実態調査)、80代以上の代表税理士は 約3,421人(会計事務所名鑑)。事務所単位で見れば、業界の世代交代圧力は他業種より遥かに強い。一方で、税理士業界は 「職員独立支援」「大手税理士法人への統合」「第三者M&A」という3つの実務的な選択肢が既に確立しており、内部昇格・第三者承継への移行は他業種より早く進む素地がある。
帝国データバンクの経年データをそのまま直線で延ばすと、2030年の全産業後継者不在率は 約38%まで下がる可能性がある。一方、税理士業界は事務所数自体が減少するため、不在率の改善とは別の次元で「事業所が消えてゆく」現象が並行する。経済センサスベースで税理士事務所数は2030年に推定 2.5万事務所、2035年には 2万事務所まで減る単純予測もある。これは個別事務所の問題ではなく、業界全体の構造として既に確定した圧力である。本記事はあくまで業界全体の俯瞰だが、ここから先の問いは個別である。あなたの事務所の後継者準備度合い、所長年齢、職員定着率、第三者M&A検討の有無──業種平均・地域平均と並べたとき、自分の位置はどこにあるのか。次の記事では「都道府県別 税理士分布マップ(#004)」で地域差をさらに深掘りし、「職員生産性ベンチマーク(#011)」で承継準備の定量指標を扱う。