KAIKEI SHOUKEI ANALYSIS #003

後継者不在の経年変化
──全産業52.1%、税理士業界の構造はもっと根深い

帝国データバンクが10年追跡した中小企業全体の後継者不在率は2018年の66.4%から2024年の52.1%へと約14pt改善した。一方、税理士業界は「資格制約」と「高齢化」という独自構造を抱え、改善トレンドの恩恵を受けにくい。10年データで両者を並べて深掘りする。

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業界マクロ
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2026.05
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3〜4分
DATA POLICY
公的統計+業界IR
会計事務所承継サポート EDITORIAL TEAM
編集部/会計事務所M&A・事業承継の専門メディア
B
52.1%
全産業の後継者不在率(2024・帝国データバンク/過去最低)
B
14.3pt
10年改善幅(2018年66.4%→2024年52.1%)
B
3,421
80代以上の代表税理士(事務所単位の世代交代圧力)
A
53.6%
税理士の60代以上比率(後継者準備が必要な層)
01
NATIONAL TREND全産業の後継者不在率の推移
日本全体の中小企業で、後継者不在率はこの10年でどう動いたか?
全国中小企業の後継者不在率の推移(2018-2024)
単位:%/7年で14.3pt改善(66.4→52.1)
B出典: 帝国データバンク「全国企業 後継者不在率動向調査」各年版
後継者不在企業の絶対数推移(推計)
単位:万社/中小企業約337万社をベースに不在率を乗じた推計
A+B出典: 帝国データバンク/総務省「経済センサス‐基礎調査」中小企業数
不在率の構造(10年改善 vs 残り)
単位:%/2024年時点でも過半数が後継者不在
B出典: 帝国データバンク 同上
KEY FINDING
10年で約14pt改善、コロナ禍に急加速
全産業の後継者不在率は10年で 約14pt改善。コロナ禍の2020-2022年に急加速で下がったのが特徴。中小企業庁の事業承継ガイドラインや支援機関整備、第三者承継M&A市場の成熟が背景にある。一方、不在率は依然として 過半数(52.1%)で、改善の余地は大きい。
02
INDUSTRY COMPARISON業種別の後継者不在率
業種別に見ると、後継者不在率はどこが高くてどこが低いか?
業種別 後継者不在率(2024・TOP〜BOTTOM)
単位:%/建設・不動産・サービスが高位、金融・運輸が低位
B出典: 帝国データバンク「全国企業 後継者不在率動向調査(2024)」業種別
高齢社長比率と後継者不在率の関係(業種別)
単位:%/60代以上社長比率と不在率の業種クロス
B出典: 帝国データバンク 同上
業種別の改善トレンド比較(2018→2024)
単位:%/改善幅は業種でばらつき
B出典: 帝国データバンク 同上 経年比較
WARNING
税理士業界は不在率が高い業種群と同質の構造
建設・不動産・サービス業など 労働集約型・地域密着型・専門資格依存型の業種で不在率が高い。これらは税理士業界と同じ構造課題を抱える。業種別データを並べると、税理士業界の高齢化と後継者不在は決して特殊ではなく、似た業種群と同質の問題であることが見えてくる。
03
ACCOUNTING vs OTHER会計事務所と他業種の比較
会計事務所(税理士業)の事業承継は、他の業種と何が違うか?
中小企業全体 vs 会計事務所 承継3類型の比較(2024)
単位:%/会計事務所は同族承継がほぼゼロ、第三者M&Aが主流
A+B出典: 帝国データバンク/税理士法(資格者要件)/業界専門メディア集約
「親族承継できない」資格制約の構造
単位:%(推計)/親族外承継が約94%
A出典: 国税庁「税理士試験結果」/日本税理士会連合会
会計事務所固有の承継4類型の現実性
単位:—/業界実務での現実性スコア
B出典: 業界専門メディア集約(みつきコンサル/船井総研/日本M&Aセンター コラム)
KEY FINDING
税理士業の承継は「同族承継ほぼゼロ」の極端な特異性
税理士業は 有資格者要件があるため親族承継が構造的に難しい(根拠:税理士法)。中小企業全体では2024年に内部昇格36.4%が同族承継32.2%を上回る脱ファミリー化が進むなか、会計事務所では「職員独立支援」「大手税理士法人への統合」「第三者M&A」が現実的な選択肢になる。業種比較すると、会計事務所の承継は「同族承継ほぼゼロ」という極端な特異性を持つ。
04
AGE FACTOR所長年齢と後継者不在の関係
所長の年齢が高いほど後継者不在率は高くなるのか?
所長年代別 後継者不在率(全国中小企業・2024)
単位:%/30代が最高、80代以上で最低(高齢になって初めて後継者を決める傾向)
B出典: 帝国データバンク 経営者年齢別 後継者不在率
税理士の60代以上比率と他士業比較
単位:%/税理士53.6%は他士業の約1.8〜2.1倍
A出典: 各士業会員統計(日税連/日本公認会計士協会/日本司法書士会連合会/日本弁護士連合会)
全代表税理士に占める80代以上の人数(推定)
単位:人/全代表 約32,800人のうち、80代以上は約3,421人(=10.4%)
B出典: 会計事務所名鑑「80代以上の代表税理士は3,421人」記事
WARNING
税理士業界は「全産業より遅れて顕在化」する構造リスク
帝国データバンクの全産業データでは、所長年齢が上がるほど後継者不在率はむしろ下がる(80代以上で約30%)。これは 「高齢になって初めて後継者を真剣に決め始める」傾向を示す。一方、税理士業界では所長年齢の中央値が他士業より圧倒的に高い(60代以上 53.6%)ため、「全業種平均より遅れて後継者問題が顕在化する」リスク構造を抱えている。
05
SUCCESSION TYPE SHIFT承継タイプの経年変化
誰が事業を継いでいるか、この10年でどう変わったか?
中小企業の同族承継の推移(2018-2024)
単位:%/同族承継は55.4→32.2へ、約23pt減少
B出典: 帝国データバンク「全国企業 後継者不在率動向調査」就任経緯別 経年
内部昇格の急上昇(2024で最多に)
単位:%/2024年に同族承継を初めて上回る
B出典: 帝国データバンク 同上
M&A・第三者承継の推移
単位:%/10年で約1.5倍に拡大
B出典: 帝国データバンク 同上
KEY FINDING
2024年は「脱ファミリー化」が確定した歴史的転換点
中小企業全体は 2024年に内部昇格36.4%が同族承継32.2%を初めて上回り、脱ファミリー化が確定した。第三者M&Aも10年で約1.5倍に拡大。一方、税理士業界はそもそも親族承継が困難なため、この経年シフトの恩恵を最も受けやすい業種でもある(職員独立支援+第三者M&Aが現実解として既に確立)。
06
REGIONAL地域別の後継者不在率
地域によって後継者不在率は違うのか?
都道府県別 後継者不在率(2024・高位/低位)
単位:%/離島・遠隔地域が高位、大都市部が低位
B出典: 帝国データバンク「全国企業 後継者不在率動向調査(2024)」都道府県別
大都市 vs 地方の不在率比較
単位:%/約20pt の差
B出典: 帝国データバンク 同上
税理士1人あたり中小企業数 vs 後継者不在率
単位:社/%(地方ほどミスマッチ)
A+B出典: 中小企業庁/日本税理士会連合会/帝国データバンク
KEY FINDING
地方ほど不在率が高く、税理士事務所も二重の世代交代圧力
地方ほど後継者不在率が高い。とくに沖縄・北海道・鹿児島など離島・遠隔地域は不在率が60%超。地方の税理士事務所は「自社の高齢化」と「顧問先(中小企業)の高齢化」が同時進行しており、二重の世代交代圧力に晒されている。
07
SOLUTION INFRASTRUCTURE解決インフラの整備
後継者不在を解決する仕組みは整ってきたのか?
M&A支援機関 登録数の推移(2017-2024)
単位:機関数/7年で約7倍に急増
A出典: 中小企業庁「M&A支援機関登録制度」公表データ
事業承継・引継ぎ支援センター 相談件数
単位:万件/6年で約3倍に拡大
A出典: 中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター 実績」
会計事務所M&A 主要仲介社の取扱い件数(推計)
単位:件数/業界主要3-5社の年間件数
B出典: 各社IR・公開情報・業界専門メディア
KEY FINDING
解決インフラは確実に拡大、廃業から第三者承継へ
M&A支援機関は7年で 約7倍に急増、事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数も大幅増。「後継者がいないから廃業」だった時代から、「第三者に引き継ぐインフラがある」時代へ確実に移っている。会計事務所業界もこの恩恵を受けて、第三者M&Aの選択肢が広がっている。
08
OUTLOOK10年後の予測
このトレンドのまま進むと、10年後の後継者不在率はどこに着地するか?
後継者不在率の単純予測(2024→2030)
単位:%/2018-2024の数値を直線で延ばした単純予測
B出典: 帝国データバンク 経年データ+直線で延ばした単純予測
業種別「2030年の不在率」予測
単位:%/業種ごとの直線で延ばした単純予測
B出典: 帝国データバンク 経年データ+単純予測
税理士事務所の数の予測(事務所単位の集約)
単位:万事務所/不在率改善とは別に、事務所数自体が減少
A出典: 経済センサス・日本税理士会連合会/単純予測
WARNING
不在率は改善しても、事務所数自体が消えていく
全産業の後継者不在率は 直線で延ばすと2030年に約38%まで下がる可能性がある。一方、税理士業界は 事務所数自体が減少するため、不在率の改善とは別の次元で「事業所自体が消える」リスクが進む。事務所単位で見れば2035年に2万事務所まで減少する単純予測もあり、業界の集約・大手化はさらに加速する。

結論:「52.1%・14.3pt・3,421人」が示す承継トレンドの全国地殻変動と税理士業界の特異性

日本の中小企業全体で後継者不在率は確実に改善している。帝国データバンクの「全国企業 後継者不在率動向調査」によれば、2018年に66.4%だった全国の不在率は 2024年に52.1%(過去最低)へと、約10年で 14.3pt 下がった。とくに2020〜2022年のコロナ禍に急加速で改善が進み、政府の事業承継ガイドライン整備、M&A支援機関登録制度の創設、事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数拡大など、解決インフラの整備がこの改善を支えた。「後継者がいないから廃業」だった時代から、「第三者に引き継ぐ仕組みがある」時代へ、業界の地殻変動は確実に進んでいる。

ただし業種・地域で見ると改善ペースは大きく違う。建設・不動産・サービス業など 労働集約型・地域密着型・専門資格依存型の業種では今も不在率が55%超と高く、改善ペースも全国平均より緩やかだ。地域別でも、沖縄・北海道・鹿児島など離島・遠隔地域では不在率が60%超を維持し、大都市部(東京45%/神奈川42%)と20pt 近い差がある。地方の税理士事務所は、自社の高齢化と顧問先(中小企業)の高齢化が同時に進行する二重の世代交代圧力に晒されている。

税理士業界の事業承継は、他業種とは構造が違う。有資格者要件がある専門業のため、親族承継がほぼゼロに近い。中小企業全体では2024年に内部昇格36.4%が同族承継32.2%を初めて上回る歴史的転換点を迎えたが(帝国データバンク)、税理士業界ではこの「脱ファミリー化」がもっと極端に進む。税理士の60代以上比率は 53.6%(日税連 第7回実態調査)、80代以上の代表税理士は 約3,421人(会計事務所名鑑)。事務所単位で見れば、業界の世代交代圧力は他業種より遥かに強い。一方で、税理士業界は 「職員独立支援」「大手税理士法人への統合」「第三者M&A」という3つの実務的な選択肢が既に確立しており、内部昇格・第三者承継への移行は他業種より早く進む素地がある。

帝国データバンクの経年データをそのまま直線で延ばすと、2030年の全産業後継者不在率は 約38%まで下がる可能性がある。一方、税理士業界は事務所数自体が減少するため、不在率の改善とは別の次元で「事業所が消えてゆく」現象が並行する。経済センサスベースで税理士事務所数は2030年に推定 2.5万事務所、2035年には 2万事務所まで減る単純予測もある。これは個別事務所の問題ではなく、業界全体の構造として既に確定した圧力である。本記事はあくまで業界全体の俯瞰だが、ここから先の問いは個別である。あなたの事務所の後継者準備度合い、所長年齢、職員定着率、第三者M&A検討の有無──業種平均・地域平均と並べたとき、自分の位置はどこにあるのか。次の記事では「都道府県別 税理士分布マップ(#004)」で地域差をさらに深掘りし、「職員生産性ベンチマーク(#011)」で承継準備の定量指標を扱う。

REFERENCES

出典・参考文献

本記事に掲載したすべての数値・グラフは、(A) 公的統計(B) 業界調査・公開IR資料のみを根拠としている。本記事の主軸データは 帝国データバンク「全国企業 後継者不在率動向調査」(2018〜2024年版)
A
公的統計・公表資料
B
業界調査・公開IR・業界専門メディア
  • 帝国データバンク「全国企業 後継者不在率動向調査」(2018〜2024年版) 2024年版調査結果 ── KPIバンド①②, c01a-c, c02a-c, c04a, c05a-c, c06a-c, c08a-b で参照(本記事の主軸データ)
  • 会計事務所名鑑「税理士の年齢構成」記事(2024年版) 会計事務所名鑑 トップ ── KPIバンド③, c04c で参照
  • 業界専門メディア集約:みつきコンサルティング/日本M&Aセンター コラム/船井総研グループ/ZEIKEN/freeconsul 等 みつきコンサルティング日本M&Aセンター船井総研M&AZEIKEN ── c03a, c03c, c07c で参照(業界整理)
本記事では (C) 自社調査・自社推計を使用していません。
すべてのチャートは公的統計(日税連/経済センサス/国税庁/中小企業庁/各士業会員統計)と業界調査・公開IR資料(帝国データバンク/会計事務所名鑑等)のみを根拠としています。読者が出典URLから同じ数字に到達できることを編集方針としています。
最終確認日:2026年5月 | 次回改訂予定:2026年10月(以後、半年ごとに4月/10月改訂)