日税連の都道府県別会員統計と経済センサスの中小企業数を組み合わせると、税理士業界の地域構造が浮かび上がる。東京は税理士の約3割が集中する一方、地方では1人あたりの中小企業数が大都市の2倍以上に達する地域もある。8セクションで地域偏在の全体像を可視化する。
結論:「東京30%・密度2.5倍・市場余地3倍」が示す税理士業界の地域構造
税理士業界は明確な「東京一極集中」の地域構造を持っている。日本税理士会連合会の都道府県別会員統計によれば、全国の登録税理士 81,696人のうち、東京税理士会員が 約30.6%を占める。上位5県(東京・大阪・愛知・神奈川・福岡)で全体の 約57.5%を占めており、これは中小企業の地域分布(上位5県集中率約45%)よりさらに集中度が高い。「税理士は中小企業以上に大都市に偏って配置されている」という構造は、地方の税理士サービス不足の根本原因のひとつである。
一方、地方ほど 1人あたりの「お客さん候補」が多い。沖縄・鹿児島・宮崎では税理士1人あたり中小企業 50〜65社を担当する一方、東京は約25社。地方の密度は大都市の約2.5倍に達する。さらに、1事務所あたりの市場余地(中小企業数)で見ると、沖縄では 約180社/事務所、東京の約3倍に広がっている。地方は税理士不足ではあるが、買い手にとっては未開拓の市場機会でもある。中小企業の顧問契約関与率も地方で約70%と大都市より低く、まだ顧問契約のない中小企業が地方に大きく残っている。
地方は 税理士の高齢化と後継者不在の二重圧力にも晒されている。秋田・高知・島根などでは 60歳以上比率が60%超、若手(20-30代)比率は 3〜4%しかいない。80代以上の代表税理士比率は地方で 15-18%に達し、全国平均10.4%(会計事務所名鑑)を大きく上回る。同じ地方の中小企業の後継者不在率も 沖縄75%、北海道65%、鹿児島60%(帝国データバンク 2024)と全国平均52.1%を上回る。事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数 23万件のうち地方が約6割を占めることも、この需要の大きさを裏付けている。地方では「税理士自身の引退」と「顧問先中小企業の引退」が同時進行しており、買い手・大手税理士法人にとっては大きな受け皿需要が広がっている。
日税連の経年データを直線で延ばすと、10年で地方の税理士数は 20-25%減少する可能性がある。大都市集中率はさらに上がり、2035年には上位5県で 65%に達する単純予測。これは個別事務所の問題ではなく、業界全体の構造として既に確定した方向性である。地方の中小企業にとっては、税理士サービスへの地理的アクセスが制約される時代が来る。本記事はあくまで業界全体の地域マップを俯瞰したものだが、ここから先の問いは個別である。あなたの事務所がある都道府県は、業界全体でどの位置にいるのか。所長年齢、税理士1人あたりの中小企業数、後継者準備──地域平均と並べたとき、自分の位置はどこにあるのか。次の記事では「会計事務所M&A 成約件数の推移(#005)」で市場形成期の現在を読み、「職員生産性ベンチマーク(#011)」で承継準備の定量指標を扱う。