中小企業全体のM&A成約は2014年から10年で約4倍に拡大した。会計事務所M&Aもこの波の中で確実に件数を増やし、上場仲介社・支援機関を巻き込んだ「市場形成期」に入っている。中小企業庁・支援機関・上場仲介社IRの公表データだけで、現在地と方向性を可視化する。
結論:「4,000件・3,500機関・約100件」が示す会計事務所M&A市場の形成プロセス
日本の中小M&A市場はこの10年で大きく形成された。中小企業庁の「中小M&A実績調査」によれば、成約件数は2014年の 約1,000件から、2024年には 約4,200件へと 約4倍に拡大した。コロナ禍の2020-2022年に急加速で伸び、上場M&A仲介3社(日本M&Aセンター・ストライク・M&Aキャピタルパートナーズ)の合算取扱件数も2014年の約400件から2024年の 約1,500件に増えている。中小企業庁のM&A支援機関登録制度には 約3,500機関が登録され、事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数も 23万件に達した。「相談する場所がない・仲介がいない」という構造的問題はもはや解消されており、マッチング基盤は確実に整った。
会計事務所M&Aは中小M&A全体の 約2%(年間 約100件・業界推計)にとどまるが、伸び率は全体と同等のペース。10年で約3倍に拡大し、市場形成期に入っている。買い手構成は 約65%が税理士法人(大手40%+中堅25%)で、業界の集約・大型化を牽引する。辻・本郷税理士法人は10年で買収案件を約2.5倍に増やし、全国84拠点まで拡大した。同時に、金融・コンサル・ITなどの 異業種参入も10年で約3倍に増えており、買い手の多様化が進む。売り手側は売上規模 5,000万円〜1億円層がボリュームゾーン(成約案件の約35%)、職員数では 1-9人の小規模事務所が全体の 80%を占める。
譲渡価格は緩やかに上昇している。売上倍率の中央値は2014年の 0.7倍から2024年の 0.85倍へ、営業利益倍率も 3年分 → 4.5年分に拡大した(業界専門メディア複数の中央値ベース)。買い手間の競争が激化し、売り手有利の市場に近づいている。譲渡額レンジでは1,000万円〜3,000万円が最多(35%)、5,000万円〜1億円層も20%を占める。一方、成約までの平均期間は10年で半減(24ヶ月 → 12ヶ月)── 買い手・支援機関の整備でマッチングが速くなった。ただし規模が小さい案件ほど時間がかかる傾向は残っており、売り手は数年前から「引き継げる事務所」へ磨き込む準備が有利。
中小企業庁のM&A実績データを直線で延ばすと、2030年の成約件数は 約6,500件、会計事務所M&Aも 約220件まで拡大する単純予測。市場規模も 約1,000億円(M&A仲介社の売上ベース)に達する見込み。これは個別事務所の問題ではなく、業界全体の構造として既に確定した方向性である。売り手にとっては「動きやすい時代」、買い手にとっては「競争激化の時代」が確定しつつある。本記事はあくまで業界全体の市場マップを俯瞰したものだが、ここから先の問いは個別である。あなたの事務所の売上規模、職員数、所長年齢、地域──市場平均と並べたとき、自分の位置はどこにあるのか。次の記事では「譲渡価格レンジの分布(#006)」で価格相場をさらに深掘りし、「買い手タイプ別シェア分析(#007)」で買い手の多様化を扱う。